納税の本当の意味と「機能的財政論」:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第2回
中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義
なんでお金には価値があるのか?
その答えは何かと言うと、それが「税」なんです。
国家が納税義務を課していて、そのための支払い手段としてお金を使っているから、お金に価値があるのです。
そう考えると、例えば、無法地帯になったような国では、お金が通用しなくなる理由がわかります。政府がしっかりしていない国家だと、国内で「外貨」、例えば米ドルが流通したりしていますよね。それは、国家にちゃんとした徴税権力がないからです。例えば、ソ連が崩壊してロシアになった時、ロシアはハイパーインフレになりました。要するに通貨の価値がなくなった。これはソ連が崩壊して、ロシア政府が混乱したからです。
「お金はグローバルに動くんだ」とか言われている割には、お金って、ユーロみたいな例外を除けば、基本的にドルとかポンドとか円とか元とか、国家単位で定められていますよね。なんでお金は国家単位なんでしょうか? なんで「世界通貨」は無いのでしょうか?
その理由は、最終的にお金の価値を担保しているのが、国家の徴税権力だからです。従って、今回のはじめの問いに戻りますと、「無税国家はできない」理由は、税金を取らないと通貨の価値がなくなってしまうからです。ですから皆さん、安心して税金をお納めください。残念でした(笑)。
■「健全財政論」から「機能的財政論」へ
通貨が通貨であるために、国家は税金を取らないといけません。一方で、無税国家はないにせよ、自国通貨はいくらでも発行できるし、国債も破綻しないからいくらでも発行できるということなら、いわゆる「健全財政」……つまり「財政の収支を均衡しましょう」という話には意味がない、ということになりますよね。
これは結論から言うと、そうです。意味がないんです。
しかし、それならどういうふうに財政を運営すればいいんでしょうか? 本当にガンガン放漫財政してしまっていいんでしょうか? という疑問が出てきます。
予算均衡を目指さないなら、何を目指して財政を運営すればいいでしょうか?
この問いに対する答えを、1943年にアバ・ラーナーという天才経済学者が出しています。アバ・ラーナーは、当時にして「通貨というのは徴税権力と関係がある」ということを理解していた経済学者で、昨今流行りのMMTの源流のひとりです。
ラーナーは「機能的財政論」(ファンクショナル・ファイナンス)という考え方を唱えました。「健全財政論は意味がない、機能的財政論で考えるべし」と言うのです。
ラーナーが言っていることは簡単です。これまで説明してきた通り、
- 自国通貨を発行する政府は、家計や企業とは異なり、デフォルトしない
- したがって、予算収支均衡を目指す「健全財政論」は無意味
- 「プライマリー・バランスの黒字化」、財政赤字の削減、国債発行の抑制等は、財政目標として不適切
がまず前提にあるわけですが、その上で、機能的財政論というのは、「課税、財政支出、国債発行をどうするかは、予算の収支のバランスではなくて、国民にどんな影響を与えるかで考えてください」という考え方です。
ここで言う「国民への影響」とは、例えば雇用とか物価とか金利ですね。
例えば、財政赤字が大きくても、完全雇用を達成していて、かつ物価が安定していれば、その財政赤字は良いことなのです。逆に、財政が黒字でも失業者が大勢いるような場合は、財政黒字は悪いことだということになる。
つまり、「財政黒字は良い、財政赤字は悪い」という基準ではなくて、「国民にとっていいか悪いか」で判断するということです。